小石輝

私の考えでは、この作品が人々の心をわしづかみにした最大の理由は、「誰かにとって心から必要とされたい」「社会にとって役立つ存在になりたい」という根源的な二つの欲求を、「あり得ない設定」によって同時に満たす過程を描いたことにある。 現実社会でこれらを満たすことが日本人、特に三十歳代以下の「若者」層の多くにとって、実現できるとは思えないほどの彼方にあるからこそ、「決してあり得ない自己実現の物語」が共感を呼ぶのだ。この作品の超ヒットは、実は日本の社会が重度の機能不全に陥っている表れではないか。